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福岡地方裁判所飯塚支部 昭和34年(わ)105号 判決

被告人 甲 外九名

主文

被告人吉岡日登士を懲役十三年に、

被告人甲を懲役五年以上八年以下に、

被告人清水敬二を懲役一年六月に、

被告人山野俊一を懲役一年に、

被告人中島昭、同乙を各懲役八月に、

被告人稲毛隆利を懲役五月に、

被告人春永勘次、同和田保を各懲役四月に、

被告人松尾弘を罰金二千円に、

それぞれ処する。

未決勾留日数中、被告人吉岡日登士に対しては百八十日、同甲に対しては百五十日、同清水敬二に対しては十五日、同山野俊一に対しては四十五日、同中島昭に対しては百日を右各本刑に算入する。

但し本裁判確定の日から被告人乙に対しては三年間、同春永勘次、同和田保に対しては各二年間右各刑の執行を猶予する。

被告人乙を右猶予の期間中保護観察に付する。

被告人松尾弘において右罰金を完納することができないときは、金二百円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

押収にかかる黒鞘日本刀一振(昭和三三年証第一三三号の一)及び旧海軍士官用短剣一本(同号の二)は被告人山野俊一より、あいくち一本(昭和三四年証第六五号の二)は被告人甲より、あいくち様の刃物一本(同号の三)は被告人吉岡日登士より、手工用ナイフ一本(同号の九)は被告人乙より、あいくち一本(同号の一〇)は被告人清水敬二よりそれぞれこれを没収する。

訴訟費用中証人滝口文人、同高木光男に支給した分は被告人中島昭の、証人井尾正隆、同山野レズ子に支給した分は被告人松尾弘の、国選弁護人高木定義に支給した分は被告人乙の、国選弁護人岩成自助に支給した分は被告人甲の各単独負担とする。

本件公訴事実中被告人乙に対する昭和三十四年三月十六日附起訴状に記載された銃砲刀剣類等所持取締法違反の点、被告人中島昭に対する昭和三十四年三月十一日附起訴状に記載された銃砲刀剣類等所持取締法違反の点、被告人清水敬二に対する昭和三十四年七月十五日附起訴状中第二に記載された詐欺の点については被告人乙、同中島昭、同清水敬二はいずれも無罪。

理由

(罪となるべき事実)

第一、被告人稲毛隆利は嘉穂郡穂波町三菱飯塚坑一帯に勢力を有していた水洗炭業者稲毛健の実兄に当り、右健の事業を補佐していたもの、被告人吉岡日登士は右健の営む水洗場に稼働していた右稲毛一派の若い者であつたところ、右稲毛派は同じく三菱飯塚坑附近において勢力を有していた定岡英治の受刑中に同人に属していた三菱飯塚坑硬山の原炭採取の権利を落札したことから右定岡一派並に右英治の叔父にあたる飯塚市菰田地区の顔役永石文夫の一派と対立するに至り、昭和三十三年十月十五日頃右定岡英治が出所するに及び第三者の仲介によつて一応稲毛より定岡に対し右硬山の原炭を供給するという条件の下に和解がなされたが、なお両派の対立は解消するに至らず衝突を免れ難い状勢にあつたところ、被告人稲毛、同吉岡の両名は同月二十日の夜嘉穂郡穂波町大字南尾稲毛健方において外十数名の者と飲酒中前記定岡英治の弟節雄が来宅し、かねて右英治が稲毛に貸与していたバーチカル(水洗用揚水機)の返還を要求し、その際含みのある言動に及んだことに憤慨し、同日午後九時過頃杉山尚人外数名と共に同町大字平恒三菱飯塚坑錦町社宅定岡英治方に赴き、同家を取り囲み、被告人稲毛、同吉岡は共同して右英治に対し被告人吉岡は所携の白鞘日本刀(昭和三四年証第六号の一)を示して語気鋭く「お前は喧嘩する気があるか、その気があれば今総勢四十人を待機させているがどうか」と申し向け、被告人稲毛は「原炭はもうやらんぞ、若しお前がとれば水洗場の樋を打ち壊してしまうぞ」と怒鳴り、もつて数人共同して多衆の威力を示し、且つ日本刀を示して若し英治の態度如何によつては同人の生命身体財産に対し危害を加えかねない旨を告知して同人を脅迫し

第二、被告人吉岡日登士は正当な理由がないのに前記日時場所において登録済の刃渡り約五〇・一糎の白鞘日本刀一振(前記昭和三四年証第六号の一)を携帯し

第三、被告人清水敬二は前記稲毛健と親交があり、同人と共に水洗炭業を営んでいたが昭和三十三年十一月十日頃、右健が定岡英治の身内の者から殺害されるに至つたため以後右健の事業を引き継ぎ、右健の後継者の地位にあつたもの、被告人吉岡日登士、同中島昭、同乙はいずれも右稲毛及び被告人清水の一派に属し、被告人清水の営む水洗場に稼働していたものであるが、前記のとおり稲毛健が殺害されたことや、昭和三十四年二月十三日の夜被告人中島が右定岡の叔父永石文夫等より暴行を受けたこと等から右定岡及び永石一派の者に対し憎しみを抱いていたところ、被告人清水は同月十四日午後七時頃飯塚市西菰田駅前通りアロハパチンコ店前路上において右永石の使用人松本こと三上久(当二十一年)と出会うや、ちよつと来いと言つて同人を呼び寄せ、手拳をもつて同人の左頬を殴打し、同人が反撃せんとするや同行していた被告人吉岡、同中島、同乙と共同して右三上を取り囲み、同人の顔面を殴打し、被告人川口において所携の手工用ナイフ(昭和三四年証第六五号の九)をもつて右三上の背中を突き刺し、因て同人に対し治療日数約八日間を要する左背部刺創を負わせ

第四、被告人甲は前記稲毛健の親戚にあたり、被告人清水敬二方に起居して水洗人夫として働いていたが、右健が前記の如く定岡英治の身内の者より殺害されたため、右定岡派及びその背後にある永石文夫の一派に対し強い憎しみを抱いていたもの、被告人吉岡日登士は前記のとおり稲毛、清水派に属するものであるが、稲毛健の死後前記第三記載のとおり昭和三十四年二月十三日と翌十四日に相ついで稲毛、清水派と定岡、永石派の両派の間に紛争を生じ、同月十五日には愈々三菱飯塚坑硬山の原炭採取権について右両派よりそれぞれ入札されることになつたため、右両派の対立感情は激化していたところ、同日昼過ぎ被告人甲、同吉岡の両名は入札のため被告人清水敬二等に随行して嘉穂郡穂波町大字平恒大久保福美方附近に赴いた際、かねてより懇意にしていた藤原武夫こと全守寛より同人が朝方永石派の永石晴一より因縁をつけられ喧嘩を売られたこと及び永石文夫、同晴一等は入札のため万田茂夫方に居るはずだからこれから行つてみるという趣旨のことを打明けられるや、前記のとおり永石一派に対し強い反感を抱いていた被告人甲、同吉岡は右全守寛と共謀の上永石文夫、同晴一等永石一派の者を殺害しようと企て、全守寛はコルト拳銃一挺(昭和三四年証第六五号の四)及び登山用ナイフ一本を携え、被告人甲、同吉岡はそれぞれあいくち様の刃物各一本(同号の二、三)を携えて同日午後三時頃同町三菱飯塚坑錦町社宅万田茂夫方に赴き、被告人甲、同吉岡は外で待機し、全守寛が先ず右万田方に入り、同家において入札の結果を知ろうとして待機していた永石文夫(当四十四年)、永石晴一(当二十四年)、中島光(当三十二年)及び林田力雄に対し「晴一勝負すると言つたがやるか」と怒鳴り、永石晴一が一おお勝負するぞ」と答えるやいきなり同人等を目掛けて右拳銃を発射し、次いで被告人甲、同吉岡等も全守寛と共にあいくちや登山用ナイフをふるつて右万田方屋内に乱入し、前記永石文夫等と乱闘の末、中島光を全守寛の拳銃発射による右総腸骨動脈を損傷せる射創並に被告人甲等の与えた十二箇所の刺、切創による失血のため、また永石文夫を被告人吉岡等の与えた心臓、肺臓、肝臓等に達する二十二箇所の刺切創による失血のため間もなく同所においてそれぞれ死亡するに至らしめたが、林田力雄に対しては同人が全守寛の拳銃発射に驚愕してその場より逃走したため、また永石晴一に対しては全守寛が拳銃を発射し、登山用ナイフで切りつけたこと等によつて右晴一に対し治療日数約二十一日間を要する右下腿射創、左前胸部刺創等の傷害を負わせたが、同人が逃走したため、いずれも殺害の目的を遂げなかつた。

第五、被告人甲は法定の除外事由がないのに同年一月一日頃より同年二月十五日頃までの間嘉穂郡嘉波町忠隈浦田清水敬二方において刃渡り約二三・七糎のあいくち一本(昭和三四年証第六五号の二)を隠匿所持し

第六、被告人吉岡日登士は、

一、業務その他正当な理由がないのに同年二月十五日午後三時頃、嘉穂郡穂波町三菱飯塚坑錦町社宅万田茂夫方附近においてあいくち類似の刃物である刃渡り約二〇・八糎の両刃の刃物一本(昭和三四年証第六五号の三)を携帯し

二、法定の除外事由がないのに、同年二月十五日午後三時頃より翌十六日の朝まで嘉穂郡碓井町上臼井和田保方等においてコルト拳銃一挺(昭和三四年証第六五号の四)を所持し

第七、被告人清水敬二、同山野俊一は共謀の上、同年二月十五日午後八時頃、被告人甲、同吉岡日登士の両名が前記第四記載の万田茂夫方における殺人事件の犯人であることを知りながら被告人甲、同吉岡を伴つて嘉穂郡碓井町西郷九百五番地被告人春永勘次方に赴き、被告人春永及び同人の甥である被告人和田保に対し、被告人甲、同吉岡の前示犯行を打明けて被告人甲、同吉岡を同夜適当なところに匿うよう依頼し、因て被告人春永、同和田をして同夜被告人甲、同吉岡を同町上臼井四百五番地古藤勝太郎方に宿泊させもつて犯人蔵匿の教唆をし

第八、被告人春永勘次、同和田保は、同年二月十五日午後八時頃、嘉穂郡碓井町西郷九百五番地被告人春永方において前示の如く被告人清水敬二、同山野俊一より被告人甲、同吉岡日登士を同夜適当なところに匿うよう依頼されるや、共謀の上被告人甲、同吉岡が前示万田茂夫方における殺人事件の犯人であることを知りながら、同夜被告人甲、同吉岡を同町上臼井四百五番地古藤勝太郎方に宿泊させ、もつて犯人を蔵匿し

第九、被告人清水敬二は

一、昭和三十二年九月頃飯塚市昭和通り一丁目かめや旅館(経営者阿部静)において同館女中西村スエミに対し、宿泊料金支払の意思がないのにあるように装い、宿泊方を申し込み、同女をして宿泊料金の支払を受け得るものと誤信させて同館に一泊し、因て宿泊料金千円に相当する財産上不法の利益を得

二、法定の除外事由がないのに、昭和三十三年十二月五日頃より同月七日頃までの間嘉穂郡穂波町忠隈浦田の自宅において、コルト拳銃一挺(昭和三四年証第六五号の四)及び実包二発を隠匿所持し

三、法定の除外事由がないのに、昭和三十四年二月十九日嘉穂郡穂波町忠隈浦田の自宅において刃渡り約一五・九糎のあいくち一本(昭和三四年証第六五号の一〇)を隠匿所持し

第十、被告人中島昭は昭和三十三年九月十三日頃、飯塚市西菰田駅前通りにおいて同市富士タクシー運転手滝口文人に対し乗車料金支払の意思も能力もないのにあるように装い、且つ情を知らない知人遠藤剛太郎をして「この人を博多までやつてくれ」と口添えさせ、右滝口をして乗車料金の支払を受け得るものと誤信させて右タクシーに乗り込み、右滝口をして同所から嘉穂郡穂波町松ヶ瀬まで、更に同所と柳川市間を往復運転させ、因て右区間の乗車料金三千三百九十円に相当する財産上不法の利益を得

第十一、被告人山野俊一は法定の除外事由がないのに、昭和三十二年七月頃より昭和三十三年十一月十三日頃までの間コルト拳銃一挺(昭和三四年証第六五号の四)及び実包二発を同月十三日頃刃渡り約六五・二糎の黒鞘日本刀一振(昭和三三年証第一三三号の一)及び刃渡り約二一、三糎の旧海軍士官用短剣一本(同号の二)を嘉穂郡稲築町大字山野樋渡の自宅においてそれぞれ隠匿所持し

第十二、被告人松尾弘は法定の除外事由がないのに、昭和三十四年二月十五日の夜嘉穂郡碓井町上臼井被告人和田保方において被告人吉岡日登士よりコルト拳銃一挺(昭和三四年証第六五号の四)を預りこれを所持し

ていたものである。

(証拠の標目)(略)

(累犯となる前科)

被告人吉岡日登士は(一)昭和三十年十月十日福岡地方裁判所において恐喝罪により懲役八月、執行猶予四年に処せられ、昭和三十二年九月十一日福岡地方裁判所飯塚支部において右執行猶予取消の決定を受け、昭和三十三年五月三十一日右刑の執行を終え、(二)昭和三十二年七月十日同支部において銃砲刀剣類等所持取締令違反、並に暴行罪により懲役四月に処せられ、同年九月三十日右刑の執行を終えたもの

被告人山野俊一は(一)昭和二十八年三月二十六日福岡地方裁判所飯塚支部において覚せい剤取締法違反により懲役四月、執行猶予三年に処せられ、昭和二十九年三月十一日同支部において右執行猶予取消の決定を受け、同年十一月二十一日右刑の執行を終え、(二)昭和二十九年二月十八日同支部において公務執行妨害、器物損壊並に銃砲刀剣類等所持取締令違反により懲役一年に処せられ、昭和三十年四月二十八日右刑の執行を終え、(三)昭和三十年五月二日同支部において傷害並に恐喝罪により懲役一年に処せられ、昭和三十一年四月六日右刑の執行を終えたもの

被告人清水敬二は昭和三十一年一月三十日福岡地方裁判所飯塚支部において覚せい剤取締法違反により懲役四月に処せられ、同年五月二十九日右刑の執行を終えたもの

被告人中島昭は(一)昭和二十八年四月六日福岡簡易裁判所において横領罪により懲役一年に処せられ、昭和二十九年三月二十二日右刑の執行を終え、(二)昭和三十年三月二日同裁判所において窃盗罪により懲役二年に処せられ、昭和三十二年二月四日右刑の執行を終え、(三)昭和三十二年八月二十一日福岡地方裁判所飯塚支部において傷害並に暴行罪により懲役四月に処せられ、同年十二月二日右刑の執行を終えたもの

であつて右各事実は被告人吉岡日登士に対する検察事務官内丸操作成の昭和三十四年二月十八日附前科調書、被告人山野俊一に対する検察事務官近藤准司作成の昭和三十四年九月二十一日附前科調書、被告人清水敬二に対する検察事務官内丸操作成の昭和三十四年五月十九日附前科調書、被告人中島昭に対する検察事務官近藤准司作成にかかる昭和三十四年九月二十二日附前科調書、身上調査照会に対する回答書、同指紋、氏名照会に対する回答書、被告人中島昭作成の昭和三十四年二月十九日附身上申立書の各記載によりそれぞれこれを認める。

(確定裁判)

被告人清水敬二は昭和三十三年十二月十七日福岡地方裁判所飯塚支部において傷害罪により懲役六月に処せられ、右裁判は昭和三十四年四月四日確定したものであつて、右事実は被告人清水敬二に対する検察事務官内丸操作成の昭和三十四年五月十九日附前科調書の記載によりこれを認める。

(法令の適用)

被告人稲毛、同吉岡の判示第一の所為につき

暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項、罰金等臨時措置法第二条第三条(いずれも懲役刑を選択する)

被告人吉岡の判示第二の所為につき

銃砲刀剣類等所持取締法第二十一条、第十条第一項、第三十二条第一号、罰金等臨時措置法第二条(懲役刑を選択する)

被告人清水、同吉岡、同中島、同乙の判示第三の所為につき

刑法第二百四条、第六十条、罰金等臨時措置法第二条、第三条(いずれも懲役刑を選択する。なお暴力行為等処罰に関する法律違反の点は傷害罪に吸収されるものと解する。)

被告人甲、同吉岡の判示第四の所為中各殺人の点につき

各刑法第百九十九条、第六十条(いずれも有期懲役刑を選択する)

被告人甲、同吉岡の判示第四の所為中各殺人未遂の点につき

各同法第二百三条、第百九十九条、第六十条(いずれも有期懲役刑を選択する)

被告人甲の判示第五、被告人吉岡の判示第六の二の各所為、被告人清水の判示第九の二の所為中拳銃所持の点、判示第九の三の所為、被告人山野の判示第十一の所為中拳銃、日本刀、短剣所持の点、並に被告人松尾の判示第十二の所為につき

各銃砲刀剣類所持取締法第三条第一項、第三十一条第一号、罰金等臨時措置法第二条(被告人甲、同吉岡、同清水、同山野に対してはいずれも懲役刑を選択し、被告人松尾に対しては罰金刑を選択する)

被告人吉岡の判示第六の一の所為につき

銃砲刀剣類等所持取締法第二十二条、第三十二条第一号、罰金等臨時措置法第二条(懲役刑を選択する)

被告人清水、同山野の判示第七の所為につき

刑法第百三条、第六十一条第一項、第六十条、罰金等臨時措置法第二条第三条(いずれも懲役刑を選択する)

被告人春永、同和田の判示第八の所為につき

刑法第百三条、第六十条、罰金等臨時措置法第二条第三条(いずれも懲役刑を選択する)

被告人清水の判示第九の一並に被告人中島の判示第十の各所為につき

各刑法第二百四十六条第二項

被告人清水の判示第九の二の所為中実包所持の点、並に被告人山野の判示第十一の所為中実包所持の点につき

各火薬類取締法第二十一条、第五十九条第二号、罰金等臨時措置法第二条(いずれも懲役刑を選択する)

被告人清水、同山野の判示第七の被告人甲、同吉岡の両名に関する犯人蔵匿教唆、被告人春永、同和田の判示第八の被告人甲、同吉岡両名に関する犯人蔵匿、被告人清水の判示第九の二の拳銃及び実包所持の点、並に被告人山野の判示第十一の日本刀、短剣、拳銃及び実包所持の点はいずれも一個の行為が数個の罪名に触れる場合であるから

各刑法第五十四条第一項前段、第十条(いずれも被告人吉岡に関する犯人蔵匿罪、同教唆罪、拳銃所持についての銃砲刀剣類等所持取締法違反罪の各刑により処断する)

被告人吉岡、同山野、同清水、同中島に対する累犯による刑の加重につき

各同法第五十六条第一項、第五十七条(なお被告人山野、同中島については更に各同法第五十九条を、被告人吉岡については更に前示各殺人、同未遂罪につき同法第十四条を適用する)

被告人吉岡、同山野、同中島、同甲に対する併合罪による刑の加重につき

各同法第四十五条前段、第四十七条本文、第十条(被告人吉岡、同甲、同中島については更に同法第十四条を適用し、被告人吉岡については判示第四の所為中永石文夫に対する殺人罪の刑に、被告人甲については判示第四の所為中中島光に対する殺人罪の刑に、被告人中島については判示第三の傷害罪の刑に、被告人山野については判示第十一の拳銃所持に関する銃砲刀剣類等所持取締法違反の刑にそれぞれ加重する)

被告人清水に対する併合罪による刑の加重については同被告人の判示各所為はいずれも前示確定裁判前に行われたものであるから

刑法第四十五条後段、第五十条、第四十五条前段、第四十七条本文、第十条、第十四条(判示第三の傷害罪の刑に加重する)

被告人甲に対する不定期刑につき

少年法第五十二条

被告人吉岡、同甲、同清水、同山野、同中島に対する未決勾留日数の通算につき

各刑法第二十一条

被告人乙、同春永、同和田に対する刑の執行猶予につき

各同法第二十五条第一項

被告人乙に対する保護観察につき

同法第二十五条の二第一項前段

被告人松尾に対する換刑処分につき

同法第十八条

没収につき

押収にかかる黒鞘日本刀一振(昭和三三年証第一三三号の一)、及び旧海軍士官用短剣一本(同号の二)はいずれも判示第十一の犯行を組成したもの、あいくち一本(昭和三四年証第六五号の二)は判示第五の犯行を組成したもの、あいくち様の刃物一本(同号の三)は判示第六の一の犯行を組成したもの、あいくち一本(同号の一〇)は判示第九の三の犯行を組成したものであり、いずれも犯人以外のものに属しないので同法第十九条第一項第一号第二項により没収する。

また、押収にかかる手工用ナイフ一本(昭和三四年証第六五号の九)は判示第三の犯行に供したものであり、犯人以外のものに属しないので同法第十九条第一項第二号第二項により没収する。

訴訟費用の負担につき

各刑事訴訟法第百八十一条第一項本文(なお訴訟費用中被告人山野に関する証人伊佐清美に支給した分は同条第一項但書により同被告人に負担させない)

(一部無罪の理由)

一、被告人乙に対する公訴事実中、同被告人が法定の除外事由がないのに昭和三十四年二月十九日嘉穂郡穂波町忠隈浦田清水敬二方において刃渡り約一八・三糎のあいくち一本を所持していた旨の事実については、押収にかかる刃渡り約一八・二糎の刃物(昭和三四年証第六五号の八)の存在、並に同被告人の司法警察員に対する昭和三十四年三月三日附供述調書の記載を綜合すれば、同被告人が前記日時場所において右起訴にかかる刃物を所持していたことはこれを認めることができるけれども、しかし右各証拠によれば右刃物は同被告人が柄の抜けた刺身庖丁にボール紙で柄と鞘とを作り、その上に繃帯を捲いたものであることが認められ、その形態から見てあいくち類似の刃物と言い得るにしても、あいくちであるとは認め難く従つて右刃物を単に所持していただけでは犯罪を構成しない。尤も若し同被告人において前記日時に右刃物を携帯していた事実が認められるとすれば訴因変更の手続を要せずして銃砲刀剣類等所持取締法第二十二条違反の罪に問うことも可能であるが、右携帯の事実を認めるに足る証拠は存しないので結局右公訴事実については犯罪の証明がないといわなければならない。

二、被告人中島昭に対する公訴事実中同被告人が法定の除外事由がないのに昭和三十四年二月十九日嘉穂郡穂波町松ヶ瀬四組内田方において刃渡り約一五・二糎のあいくち一本を隠匿所持していた旨の事実については、押収にかかる刃渡り約一五・二糎の刃物(昭和三四年証第六五号の一一)の存在、被告人中島昭の検察官に対する昭和三十四年三月十一日附供述調書並に被告人乙の司法警察員に対する昭和三十四年三月三日附供述調書の各記載を綜合すれば、被告人中島が前記日時場所において、右起訴にかかる刃物を所持していたことは認められるが、しかし右各証拠によれば、右刃物は被告人乙が金物屋において登山用ナイフとして販売していたものを購入したものであることが認められ、その形態においてもあいくち類似の刃物とみるべきであり、被告人中島において、前記日時に右刃物を携帯していたことを認めるに足る証拠は存しないので、右公訴事実については犯罪の証明がない。

三、被告人清水敬二に対する公訴事実中同被告人が昭和三十三年八月頃、飯塚市昭和通り一丁目飲食店旭屋こと梶原トキヱ方において同店女中橋本ツヤ子に対しビール等を注文し、同女をして飲食後直に飲食代金の支払を受け得るものと誤信させ、よつて即時同所で同女より金七百五十円相当の飲食物の提供を受けてこれを騙取したとの事実については、梶原トキヱの検察官に対する供述調書によれば同被告人は右事件の前に数回右旭屋において飲食したことがあつたがその都度きちんと勘定を払つていたことが認められるところ、同被告人は司法警察員に対する昭和三十四年三月二十七日附供述調書において、同被告人が当日知人中村渡に一ぱい飲ませたところ、右中村が今度は自分がおごるからというので同人と共に前記飲食店に行き飲食中人と喧嘩をしてそのまま警察に逮捕されたためその後のことは判らないが、その時の飲食代金は当然右中村が払つているものと思つていた旨述べており、前段認定の内被告人の平素の支払状況と考え合わせると、同被告人の右弁解もにわかに排斥し難く、他に同被告人の犯意を認めるに足る証拠はない。

しからば被告人乙に対しては前記一記載の公訴事実につき被告人中島昭に対しては前記二記載の公訴事実につき、被告人清水敬二に対しては前記三記載の公訴事実につきいずれも刑事訴訟法第三百三十六条後段に則り、無罪の言渡をなすべきものである。

なお、被告人松尾弘に対する公訴事実中同被告人が昭和三十四年二月十五日頃嘉穂郡稲築町山野樋渡山野俊一方附近において拳銃の実包一発を所持していたとの点については、福岡県警察本部犯罪科学研究所技術吏員井尾正隆作成の昭和三十四年二月二十八日附鑑定書の記載並に証人井尾正隆の当公廷における供述を綜合すれば、同被告人につき同年二月十六日頃亜硝酸イオンの検出を行つたところ、同被告人の右手、着衣の左右袖口、右胸に陽性反応があつたこと、及びその附着の状況からみて拳銃発射によつて附着した可能性が強いことが窺われるが右事実のみをもつて直に同被告人自身がその頃拳銃を発射し、従つて実包を所持していたとは断定し難く、他に右事実を認めるに足る証拠は存しないので右実包所持の点については犯罪の証明がないものといわなければならないが、右は起訴にかかる同被告人の拳銃所持の事実と一所為数法の関係にあるものとして起訴されたことは明らかであるから主文において特に無罪の言渡をしない。

以上の理由により主文のとおり判決する。

(裁判官 桜木繁次 川渕幸雄 吉田修)

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